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厳しい制約条件下での最適解に最大の賛辞を。 少なくとも現状では空間デザインに土木屋が関わるべきではないようだ。 |
コンコース(photo#2)を抜けると、正面に「のりば」と書かれた薄暗いトンネルが穴を開けて待っている(photo#3)。エスカレーターで降りていくと突然視界が開け、地下の大空間が姿を現す。閉鎖空間の中での開放感の演出であり、緻密な計算の跡が伺える装置である(photo#4, 5)。 (言葉ではうまく伝えられないので実際に体験してもらいたい) この駅は全体を一冊の歴史の本に見立て、グラフィックデザイナーの松田行正氏監修の下、古い写真をタイルに焼き付け内装に使用している。といっても説教っぽいものではないし、少し離れると模様程度にしか認識できないので邪魔ではない(#6)。 その他細かいが印象に残った箇所として、駅で使用されているフォントをあげたい(photo#7)。フォントを変えるだけでただの駅名がカフェやインテリアショップっぽくなったりするから不思議だ(#7)。大してお金もかからないことだし、他の駅でもぜひ試してみてほしい。 地下駅の場合、土木工事の都合から大枠のプロポーションや動線が既に決まっており、建築家の仕事はヴォイド(空隙)の装飾に過ぎない。だが仕上がりを見ると、この事例でも実用性と作家性のバランスが非常に良い。これは、実用性に偏った状態から出発し、枠の中で作家性を極限まで追求させた結果、ちょうどいいバランスに落ち着いたためだと思われる(恐らく建築家本人には不満が残っているだろうが、彼らが不満に思うくらいがちょうど良いのだ)。通常の建築デザインで建築家を起用する際にも、色彩や壁面率など細かなデザイン規制を(彼らから不平不満が出るくらいに)課しておき、決して彼らに好き勝手させないことが重要なのではないか。改めてそう感じた。 もう一つ再確認したのは、やはり土木屋にデザイン能力を求めるのは間違いだし、現状では彼らにデザインをさせてはいけないということだ。このみなとみらい線にも一つだけ建築家が関わっていない駅があるが、ホームに降りた瞬間に分かった。均等に明るすぎる照明、どぎつい色彩、サインカーブで安易に表現された”波”、とって付けたようなレンガ風タイル…。全てにおいて”寒い”。空間デザインは特別な贅沢品で私たちには関係ないとでも思っているのだろうか。 近年では土木の人間も、自分たちが作るものを醜いと言う世間の評価を気にするようになってきたようで(土木工事の総量が減少していることと無関係ではないと思う…)、むしろ自信を失い萎縮している面があるようだ。恐らく彼らはなぜ醜いのか理解できず、ではどうデザインすればよいかという方向性も見えていないのだろう。 だが土木構造物には機能美と素材美という、神から授かった「美」が備わっている。デザインする際にはそれを殺さないように注意すればよいだけなので、本来は建築よりも良いデザインになる可能性は高いはずだ。例えばシールドマシンがくりぬいた優美なトンネルにわざわざ化粧板を貼り付けてコンクリートセグメントを隠してしまう…そういう馬鹿げたことをやめれば良い(1)。 とは言え、そのことを認識できていない現状ではデザインは建築屋に任せた方がいいだろう。ぜひ土木の人たちはこういった事例をよく見て、機能美と素材美を認識してもらいたい。そうすれば必ずインフラのデザインレベルは上がり、人々に愛されるようになるであろう。 話をまとめておこう。 「建築屋の論理…作家性の最大化」と、「土木屋の論理…実用性の最大化」が駅という題材の元で衝突した結果、作家性と実用性のバランスが取れ、良い空間になった。 ならば、建築屋には厳しい制約を課して作家性を抑制し、土木屋には「美」を認識させて作家性を目覚めさせれば良い結果に結びつくと思われる。 |
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みなとみらい線 元町・中華街駅 Motomachi-Chukagai Station |
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みなとみらい線の終点がこの元町・中華街駅だ。集客的には中華街の名前を入れた方が良いのだろうが、元町の真下にあるので実質的には元町駅である。 | ||||||||||||||
#1:プラットホーム。壁面のグレーやメタリックが目に付くが、基本的に”白い駅”である。 |
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みなとみらい線 横浜−新高島−みなとみらい−馬車道−日本大通り−元町・中華街 [補注] (1) 実際はそう簡単ではなくて、特に地下駅の場合は漏水を考え二重壁とせざるを得ないこともある。ものの例えと考えてもらいたい。 [参考文献・サイト] 1) 「みなとみらい線の駅」 雑誌『新建築』2004年1月号, pp100 2) 横浜高速鉄道ウェブサイト http://mm21railway.co.jp/www/ [行き方ガイド] みなとみらい線は東急東横線と直通運転をしている。所要時間は渋谷から35分(特急の場合)、横浜から8分程度。
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