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ガラス箱「エコリアム」は清掃工場のイメージを一新する。 |
工場が建ち並ぶ吉島(よしじま)地区の突端、河口の埋め立て地に建てられた清掃工場。著名な建築家を起用し良質な公共施設を整備するプロジェクト「ひろしま2045:平和と創造のまち(*1)(以下、P&C事業と表記)」として計画されており、作家性を強く押し出した建築に仕上がっている。 美術館設計の第一人者が手がけるゴミ処理場 外観を見てまず気付くのは中央部の貫通通路「エコリアム」だ。建物の中に幅5m高さ4.5mのガラスの箱を入れ込む形になっており、自由に中に入ることができる。ガラスを通して眺める最新鋭の焼却装置は実際に稼働しているもので、テーマパークのレプリカには出せない質感・機能美に溢れている。(写真#2〜#6) 建築家谷口吉生はニューヨークMOMAを始めとする多くの美術館を手がけている。ゴミ処理場を「魅せる」ものにするという目的においては最適任者といっていい。 谷口本人の言葉を引用すると…
確かにNIMBY(*2)施設の嫌悪感を解決するために多く取られてきたアプローチは、外装を化粧してごまかす方法であった。この最も極端なケースはフンデルトヴァッサーが外装を手がけた清掃工場だと思う(写真#17)。 一方、ゴミ処理施設としての必要ボリュームは巨大で隠しようがなく、都市における存在感はどうしても大きくなるのだから、逆に隠さず「ここに清掃工場があるよ」とアピールする方法もあるのではないか、と谷口は提案している。環境負荷が少なく悪臭も発生しない最新鋭の焼却装置によってこの提案は見事に実現した。ゴミ焼却施設を美しく演出し見せることで「ゴミ焼き場」というネガティブイメージを払拭することに成功しているだけでなく、「人間が生活することとは即ちゴミを出すことで、清掃工場は都市に必要。NIMBYだと言わずに一度よく見てみようよ。」という当然かつ大切なメッセージを発信している。 インパクト一発勝負 エコリアムには、一応「清掃工場について学びましょう」的な展示(写真#8)はあるものの、そんな実用性は吹き飛んでしまうほど作家性が強く出ている。例えばゴミ収集車のオブジェ(写真#9)は、それを見て収集車の構造を学ぶというよりは、現代アートとしての色が濃く、見る者をハッとさせるインパクトがある。ごみ行政への認識を新たにしてもらうという啓蒙活動においてこういうインパクト一発勝負というのも悪くない。 都市軸に素直なプランニング エコリアムは吉島通りの軸にぴったり合わせてあるため、海側を見れば河口部の風景が、陸側を見れば広島のビル群が目に入ってくる。都市軸を曲解せず明快に導いた最適解だと思う。
内部見学で見ることができる箇所について 事前に予約しておけば、エコリアムよりさらに内側、工場内部も見学できる。こちらはエコリアムとは違ってコンクリートの重量感溢れる空間となっている(写真#20,#21)。この建築の場合、建築設計と設備設計の整合を取っていくところにデザインの本質があり、かつ苦労の耐えないところであったに違いない。エコリアムではほぼ破綻無くまとめられているものの、見学者通路の一部ではガラス張りなのにキャットウォークが邪魔をして設備を見ることができない箇所(写真#22)もあった。 |
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広島市環境局中工場 Naka Waste Incineration Plant |
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![]() #1 |
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![]() #2:エコリアム(Ecology + Atrium = Ecorium)と名付けられたガラス箱による貫通通路。焼却装置と植栽の対比、さらに見学者を包み込むガラスとウッドデッキの組み合わせは十分に魅力的。 |
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![]() #3 |
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ところで、これは本当に2045年まで残るのか? 最後に苦言を一つ。この種のガラス&メタルな建築は竣工当初は本当に美しいのだが、特に臨海部にある場合、塩害対策をしてあるといってもやがて無惨な姿になっていくことが多い。流行を目一杯追いかけて劣化したら速攻で建て替えるならこのデザインは最適解だと思う。だがこれがP&C事業の主旨である「2045年になって評価される良質な公共建築」かと言われると、甚だ疑わしく思う。 そもそも日進月歩の焼却設備は20〜30年で更新される可能性が高い。この際に設備だけを交換するのならともかく、建物も一緒に壊されてしまう可能性も残されている。清掃工場としての役割を終えた後に体育館等に改装して使い続けるというのなら話は別だが、もし短期間で取り壊されるようなことになれば、これをP&C対象事業とすることが適切であったのか問われることになるだろう。 とは言え、総合的に見てとても見応えのある空間に仕上がっている。材が劣化する前、すなわち向こう数年は設計者の意図通りの空間を味わえるだろう。建築に興味があるのなら訪問して損のない建物だ。 |
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[補注] (*1) 被爆100周年の2045年に向け、優れたデザインの社会資本の整備を目的として設計者を選定するプロジェクト。 他の事例: 基町高校|矢野南小学校|西消防署|環境局中工場 解説ページ(arch-hiroshima内) (*2) Not In My BackYardの略。生活するために必要だが、自分の家の隣にはあって欲しくない施設のこと。身近な例では、ご近所でどこをゴミ置き場にするかで揉めごとになる。大きな例では首都圏向けの原子力発電所が地方に建設され、見返りとして道路がきれいになったり公園ができたりする。この事例は清掃工場というNIMBY施設をどうデザインするかが最大のテーマだったと言える。
[見学ガイド] エコリアムは9:00〜16:30のみ自由見学可能(年末年始などは閉館)。さらに工場の内部を見学する場合には事前予約が必要。見学に関する情報はこちら。 工場周辺の緑地の開放時間は6〜22時(夏期)8〜20時(冬季)。 |
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