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広島県 INDEX
木造の良さをRC躯体に詰め込んで、大地から生えてきたような建築。
環境共生へのこだわりと建材選択の妙は必見だ。
DATA
■設計:象設計集団(富田玲子)
■所在地:広島県広島市安芸区矢野南4-17-1
■用途:小学校
■竣工:1998年(平成10年)4月
■延床面積:8,707平米
■構造:RC造3階(校舎)
■付近の地図(mapion)
広島市郊外、矢野ニュータウンの人口増を見込んで新設された小学校。有名建築家を起用してデザイン性の高い公共建築を整備するプロジェクト「ひろしま2045ピースアンドクリエイト」(1)の一環として建てられることになり、以前「安佐町農協町民センター(1985年)」で広島市と関わりがあった富田氏を起用することになった。
ここでは、実際に訪問して気付いた点を「見どころ」としてあげてみようと思う。
広島市立矢野南小学校
Yano-Minami Elementary School

#1:ファサード。躯体はあくまで堅牢に作られている。
見どころ1:機能を教室単位に分化すること。バッファー空間を置くこと。

#2:廊下を挟んで教室、手洗い場、下駄箱が見える。

 #3:下駄箱スペース。教室からすぐ校庭に出ることができる。

#4:この吹き抜けは採光だけではなく、上階から常に水滴が落ちるようになっている。ここの空間演出(鉢植えなど)学級ごとに決めているようだ。

 #5:上階の様子。水滴が絶えることなく下に落ち続けている。水田からの排水だろうか?

 #6:教室の内部。机と椅子は全て木製。

  #7:吹き抜けを見上げるとこんな感じ


図-1:教室ユニットの概念図。

1:教室 2:廊下 3:吹き抜け下の箱庭 4:ウッドデッキ 5:掃除道具箱 6:下駄箱 7:手洗い場


教室は、どれ一つとして同じ設計ではないが、大まかに見て図-1のようになっている。
教室ごとに用意されたウッドデッキ、下駄箱、水道は、半パブリックな空間を意図したのだろう。
また、廊下からウッドデッキにかけては内部空間か外部空間か断定できない、バッファーという位置づけになっているようだ。


みどころ2:経年変化を前提に建材を選択していること。

#8:教室の窓とドアは木製。いい感じに色褪せてきていて、古い洋館にも似たオーラを放っている。

 #9
古い木造校舎は耐久性に問題がある一方で、コンクリート建築にはない味がある(コンクリート建築に味がないというわけではないが)。この校舎では両者のいいところを組み合わせているように思える。躯体にはRC造を採用して耐久性と堅牢性を与え、子供が直に触れる部分には自然素材(木サッシなど)を使う。実に明快な論理であり、その試みは正解であったと言ってよい。
壁面の色彩も落ち着いた(彩度が低い)色を用いており、経年変化で建物が薄汚れてきても見苦しくはならず、逆に深みを増してくるであろう。環境共生をキーワードに建材や色彩を決定したと推測するが、同時に私が理想と考える「汚れることを前提にした建築デザイン」への一つの答えとなっている。
みどころ3:遊び心をデザインの一部にしていること。
校内の各所に遊び心満載の仕掛けが用意されている。作家性が強いデザインだが、独りよがりというわけではない。

#10:児童用トイレ

#11:図工室前の廊下。なんだか工作っぽい(?)庇が面白い。

#12:造形の庭と名付けられた中庭。ビオトープ"風"な池がある。

#13:理科の庭。青系のタイルを貼った排水路が巡っている。

 #14:理科の庭ディテール1
雨樋から落ちた雨水は水路を流れていく。

 #15:理科の庭ディテール2。
雨が落ちるとクルクル回る水車(右)は見ているだけで楽しいギミックだ。
みどころ4:環境共生建築であること。

#16:二階の五年生ゾーン。

#17:屋上の水田。排水機構は、下階へ水滴を落としているアレ(写真#5)かなと推測するが、給水は普通にポンプなのだろうか…?

#18:みのりの庭。小さな菜園になっている。
この校舎、確かに奇抜ではあるが、以前見学したことのある打瀬小学校(幕張ベイタウン内)のように、一切の壁を取り去るといった、学校のシステムそのものを揺るがすような提案はしていない。私の印象では、先程書いたように、古い木造校舎の良いところを抜き出してRC躯体に入れ込んだように思える。クライアントが戸惑い無く使えるハードを最適な形で提供したという意味において、この建築は作家性と実用性のバランスが絶妙であると結論づけたい。
ここでピースアンドクリエイトで建てられた他の建築を思い出してみると、「基町高校」はカリスマ建築家の原さんがお作りになったというだけでそれ以上の価値は無い。「西消防署」は悪くはないが、実験的要素が強い意欲作であり、せんだいメディアテークに近い存在。そもそもこのプロジェクトの目的は21世紀に良質な建築を残すことであって、わけの分からない実験的現代芸術の展覧会ではない。そう考えると、私はこの校舎が最もプロジェクトの主旨に適合し、成功したように思える。実際に行ってどう感じるかは人それぞれだが、私の見る限り、既に歴史的建造物になることが確定したような風格さえ漂っている。竣工して数年しか経ってないのに、である。
残った関心事は、こういった環境共生建築の維持管理コストの有利 or 不利が結局どうなるのかという点だ。
おまけ・平面図
矢野南小学校の平面図
[補注]
(1) 後に 「ひろしま2045:平和と創造のまち」 と改称された。

[参考文献・サイト]
1) 象設計集団オフィシャルサイト
2) 矢野南小学校オフィシャルサイト


[行き方]
JR呉線「矢野」駅で降り、ここからバスに乗って「矢野ニュータウン中」で下車。バス停から道なりに少し坂を上がっていくと見える。
私(makoto)が訪問したのは夏休み中であり、校門は閉じられていたものの見学させてもらうことができた。平日に関しては不明。


作成 :2003/8/12
最終更新 :2003/8/23
作成者 : makoto/arch-hiroshima

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