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東京都 INDEX
横文字をそのまま受け入れる以前のデザイン規範がここにはある。
築地市場を失う時、それは東京に残る最大の”生きた江戸文化”を失うに他ならない。
DATA
■設計:東京市土木局建築課
■所在地:東京都中央区築地5-2-1
(ちゅうおうくつきじ)
■用途:市場
■竣工:1934年(昭和9年)
■規模:調査中
付近の地図(mapion)
まずは築地市場の歴史を書いておこう。
江戸の魚市場は日本橋室町周辺にあった。この市場は明治以降も続いていたが、関東大震災(1923年)を契機に一気に近代的な公設市場を整備することとなり、江田島に移転した海軍兵学校の跡地であるこの地が選定された。以後、物価統制があった戦時を除けば国内最大の魚市場としての機能を果たし続け現在に至っている。なお、建物が扇形になった理由はphoto#2にあるように鉄道輸送を前提に設計したためである。しかし戦後はトラック輸送に転換したため、むしろ非効率になってしまった。

では築地市場に入ってみよう。個人で見学するなら許可などは不要だ。
市場に一歩足を踏み入れると、そこはもうまるで別世界。狭い敷地の中に品物が雑然と置かれ、その合間を縫うようにターレ(1)や荷車が走る。ここには交通安全とかいう発想はないから自分の身は自分で守らねばならない。ちょうどバンコクでトゥクトゥクの群れをかわしながら歩くようなものだ。

築地市場は観光客が多い。特に外国人が大挙して押し寄せてきている。近代国家としての物流拠点と江戸情緒とが混じった希有な空間であり、しかも見物にお金がかからないためであろう。

ではなぜこの空間から江戸情緒を感じるのだろうかと思って見回していたら、一つのことに気付いた。
この敷地にはアルファベットというものが存在しないのだ。場内も場外も。カタカナも少ない。仲卸業者の看板は基本的に白地に黒でどーんと漢字で書いてある。ああ、漢字だけで国を回していた時代もあったのかと当たり前のことを再確認する。

日本人はいつのまにかアルファベットをアルファベットのまま、或いはカタカナ表記することで咀嚼・消化することなく受け入れるようになってしまったが、ここにはそれ以前のデザイン規範が存在し、全空間がその規範に覆い尽くされ、さらに現役で使われている。神社仏閣の類を除けば、これだけの集積はもう国内には無いのではないか?

アルファベット文化に触れた現代人の感覚では新しい漢字を使ったデザイン規範を作ることはできても(例えば1980年代の傑作「無印良品」)、それは近世・近代のノリとは違う。だからこのデザイン規範は現物として残っているものが全てであり、失われたらそれっきり再現されることはない。従って、ここを生きた近代化遺産として使い続ける(建て替えるにしてもデザイン規範を継承する)ことには意義がある。


さて、東京都は施設の老朽化と物流の効率化を理由にこの市場を豊洲に移転させる計画を持っている。そうなると恐らく跡地には何の変哲もない高層ビルが建ち、地霊もデザイン規範も跡形もなく抹消されることだろう。
関心のある人は、今のうちに見ておいた方が良いと思う。


…延々と書いてきたが、難しいこと抜きで純粋に楽しめる観光地だ。まだ行ったことのない人は早起きして訪問してみてはどうだろうか。
築地市場(東京都中央卸売市場築地市場)
Tsukiji Market (The Central Wholesale Market)
築地市場は言うまでもなく国内最大の魚市場である。日本最大ということは当然世界有数の市場になるわけで、毎朝全国・全世界からあらゆる魚がこの地に集まってくる。

#1:内部空間。物が雑然と置かれている中をターレ(1)が疾走する。大量の物資を流すことを想定してはあるが、まだヒューマンスケールでの設計がなされていた時代の産物だけあって、高密な空間となっている。ちなみにここは扇形の外周部にあたり、卸売業者が入居している。

#2:昭和49年撮影の空中写真。汐留(写真左上)は再開発される以前は貨物駅であった。設計当時は海路に加えて陸路、すなわち鉄道での搬入が想定されており、長大な貨車を引き込むにはどうしても”長さ”が必要で、必然的に市場は扇形になった(写真右下)。
(写真出所 : 国土画像情報(カラー空中写真), 国土交通省)

#3:photo#1と同じく扇形の外周部。写真では活気まで伝えることはできない。現地で、五感で感じてもらいたい。

 #4:扇形の内周部は仲卸業者が入居する。

#5:photo#4と同じく仲卸業者のエリア。アルファベットのない空間って、意外に少ないと思う。

#6

#7:ヒューマンスケールな空間は旧態依然とした流通システムとリンクしている。現代の感覚で効率を追い求めるとこういう空間にはならない。

#8

#9:牛丼の吉野家はここが発祥の地。

#10:築地場外の外縁部。やっぱりバンコクを思い出す。
<おまけ。築地場外>

今までのゾーンは「場内」と呼ばれる市場で、原則として小売りは行わない。市場に隣接する「場外」は一般客を相手にした商店街になっている。
市場を見た後はここでショッピング…というのが王道のようだ。

建築的に気になったのは次の二点。

1:木造銅板仕上げの建築(マンサード屋根を伴うものあり)がまとまって残っている。(photo#11)
2:飲食店の一部は歩道を占用して食事スペースとしている。いかにもアジアな空間だが、恐らく合法ではないと思われる。(photo#12)


#11

 #12:これは合法化を考えた方がいい。
[補注]
(1) 正しくはターレット式構内運搬車。小回りが利く分、ありえない方向から迫ってくるので注意。


[参考文献・サイト]
1) ザ・築地市場 http://www.tsukiji-market.or.jp/index.html

[見学ガイド]
・最寄り駅は大江戸線「築地市場」駅。少し頑張れば銀座からも歩ける。
・団体の場合は事前に相談する必要があるが、数人で行くのなら予約も許可も要らないので、正面から堂々と入ってよい。ただし観光客の急増により業務に支障が出るようになってきたため、基本的にセリ時間帯の見学はしないこと。
・狭い場内を車やターレ(1)が走り回っており、かなり危険。歩きやすい服装で行き、周りをよく見て歩くこと。
・周辺には汐留・浜離宮・築地本願寺・聖路加病院など見所が多い。併せて訪問されることをおすすめする。
作成:2004/6/6 最終更新:2004/6/6
作成者:makoto/arch-hiroshima 使用カメラ:Canon PowerShot G3
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