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軽くて透明でシンプルな美術館。 21世紀初期型モダニズム建築(*1)の代表作となるか。 |
丸いこと 建築と言えば、まずファサード(正面)があり、裏には見せたくないサービスヤードを設けるのが普通なのだが、この敷地はどの方向からでもアクセスできるため、建物を丸くして表裏の区別をなくして側面全てをファサードとしている。 丸いために自分の現在位置を把握しにくいのは確かだが、中の廊下が全て直線になっているのと、その廊下がガラス張りで見通しが利くのと、そもそも一周歩いても大した距離ではないので、欠点というほどでもないかなと思う。 シンプルなこと ひたすらに軽くて透明でシンプルな空間づくりを競い合う建築家の中にあって、SANAAの存在は際立つものがある。 全体のプランニングにあたっても、必要な展示室のハコを集落のように並べて、ぐるりと丸いガラスで囲うという、無駄をそぎ落としたシンプルな考え方が貫かれている。 透明といえば、やはり外縁部の丸いガラス壁面だ。構造的に大丈夫とは分かっていても、素人目にはこれで地震やら雪やらに対抗できるのか、つい不安になる。 明るいこと 写真では露出が暗めに出ているが、実際の室内はもっと明るい印象。驚いたのは展示室(写真なし)の天井にトップライトがあること。もちろん直射光が入るわけではないし、展示作品は絵画ほど太陽光にデリケートではないから大丈夫なのだろうと思うけど、それにしても明るい。 一方、夜間は「日陰」がなくなり、逆に壁の白さが強調される。(写真#8 #9 #10) 周辺との調和 この美術館は街区全部が敷地というわけではなく、幹線道路側に隣接建物が残っている。いくら外構を整備してもこれら既存建物の裏側が見えてしまうと台無しになるわけだが、どういう方法でやったのか、これらの裏側がきちんと化粧されている。 (写真#11) |
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金沢21世紀美術館 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa |
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金沢市役所や兼六園にも近く、香林坊・片町といった繁華街からも近い都心に位置する学校跡地に建てられた現代美術館。ルーブルの分館も勝ち取り世界的な売れっ子建築家になったSANAAの、現時点での代表作と言っても差し支えないだろう。 地図を見れば分かるように、この建物は官公庁・文化施設群と都心商業地の境界線上に立地している。ただし非戦災の地方都市である金沢らしく、都心といっても周囲は低層の土地利用であり、空が広くて気持ちの良いエリアだ。 |
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![]() #1:東側立面。チケットブースが東側で駐車場IN-OUTは西側なので、こちらが一応の正面といえる。都心なのに空が広いのは地方都市ならではの贅沢。芝生の状態も申し分なし。 |
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![]() #2:風景を切り取ることに徹する空間の中に頼りない柱が落ちている。ガラス面には衝突防止のマーキングがなされてないので、子供がぶつかってケガをする可能性もありそう。 |
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![]() #3 |
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![]() #12:内部にある光庭の一つ。展示室の外も中も明るい。 |
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豊富な無料ゾーン 最近の美術館は自分で美術品を所有せずに床貸しに徹するトレンドが見受けられる。この美術館にも一応収蔵品はあるものの、基本的に企画展と市民活動向けスペースを中心に計画されている。 平面図を見れば分かるように、有料展示室の周囲に無料ゾーンが配置されており、「スイミング・プール(Leandro Erlich)」や「ブルー・プラネット・スカイ(James Turrell)」のように、無料で鑑賞できる作品もある。これらは美術館新築にあわせて制作を依頼した「コミッションワーク」で、美術品というよりは空間的な工夫に見える。 |
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戦略的な美術館運営 美しい建築ができたとしても、それは美術館としてのプロジェクト成功にはならない。各地の公立美術館が苦戦している中での新規開館であり、計画にあたっては、いかに使ってもらえるか、文化政策に貢献できるか、赤字を最小限にできるかについて市民コンセンサスを形成する必要があった。その中で明確な方針と戦略が練られたようだ。 現在はバブル期とは違い、公金で高価な美術品を買い集めることはできないため、収蔵品の購入にあたっては、まだ評価の定まっていない(市場価格の安い)最近の作品に絞っている。確かに賢い方法ではあるものの、どうしても無名作品ばかりになるため「客寄せパンダ」にはなれない。というわけで、無料ゾーンや市民イベントスペースを計画して気軽に立ち寄れるイメージを形成し、市内の全ての小中学生を無料招待して「もう1回入場券」を渡すことで家族連れでのリピーターを増やすアイディアなど、戦略的な運営がなされている。 美術関係者が注目した初年度の入館者数は154万人(うち有料ゾーンは41万人)。目標が30万人だったというから上々の滑り出しと言える。もちろん美術館単体で黒字が出ることはありえないが、新たな観光地として認知され観光客の滞在時間を伸ばせたこと、停滞しかけていた中心市街地に人通りが増えたことを考えると、都市経営としてはプラスになったはずだ。 |
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[補注] (*1) 20世紀に登場したモダニズム建築は建築デザイナーの仕事を「装飾」から「無駄のそぎ落とし」に変貌させた。20世紀後半の「ポストモダン」は一過性なものに終わってしまい、巷では再びモダニズム建築が栄えている。最近の構造技術の進歩は大きく、極限までシンプルな空間表現が可能になっているため、建築家はこぞってシンプル競争をしているように思える。後世の歴史家はこの現象を「21世紀初期型モダニズム建築」とでも名付けるだろう。日本人はこういうシンプル建築が本当に上手だ。あえて分析するなら、日本文化は華やかな装飾の一方で枯山水のようなシンプル化を指向する意識を持っているのと、ケガレのない純白(清明)が大好きなためかと思う。ただ、純白好きの裏返しとして、汚れたらすぐ捨ててしまうという困った習慣もあるが…。 [参考文献・サイト] 1) 金沢21世紀美術館 公式サイト 2) ウィキペディア「金沢21世紀美術館」 3) 雑誌「新建築」2004年11月号 4) 読売新聞「金沢21世紀美術館“満1歳”」 [行き方ガイド]
[入場ガイド] 2006年9月時点
[写真撮影ルール] 写真を撮影する際には必ず受付に申し出てルールを確認してください。他の来場者にとって迷惑とならないよう配慮することは言うまでもありません。 ・美術館の外観および無料ゾーンについては撮影可能。ただし来場者の顔が判別できるような撮り方は好ましくない。 ・展示作品が写り込むような角度での撮影は不可。ただし、「スイミング・プール」については撮影可。 |
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