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愛媛県 INDEX
四国随一の名品で数寄の世界に触れる。
DATA
■設計: 中野虎雄
■所在地: 愛媛県大洲市大洲411-2
■用途: 住宅(別荘)
■竣工: 臥龍院:1907年、不老庵:1901年、知止庵:1949年
■構造: 木造平屋
付近の地図(mapion)
施主は大洲出身の貿易商であった河内寅次郎。地場産業の木蝋の輸出で財を成し、1897年に肱川(ひじかわ)に面する風光明媚なこの地を買い入れた。河内は山荘の建築を地元大洲の大工棟梁である中野虎雄(寅雄)に託した。中野がこの仕事を受けた時は弱冠30歳、これほど本格的な数寄屋の経験は無かったらしく、京都に通って桂離宮などに学んだという。
臥龍山荘
Garyu Sanso
世の中には、「いいとこ探し」なんかしなくても、お世辞を書いたりしなくてもいい、正真正銘の傑作建築がたまにある。大洲の町に残る臥龍山荘もその一つ。木造建築の黄金期に京都の名匠が腕をふるった数寄屋の逸品である。

#1:肱川から不老庵を望む。がけにせり出した懸造(かけづくり)の様子が分かる。(拡大
不老庵

#2:がけ地にせり出して建っている。(拡大
河内がまず建てたのがこの不老庵。崖にせり出すように建てるのは懸造(かけづくり)と呼ばれる。懸造としたのは、肱川の眺望を最大限に得るためだろう。
肱川の眺めは、これぞ山紫水明というべきものだが、残念なことに対岸の建物が景観を損ねている。ちょっと気を遣ってくれるだけでいいのに…。

室内に目を転じると、ねずみ色を基調とする壁は利休好みの侘びた雰囲気。天井がヴォールトなのは西洋建築の影響ではなく、船にかける覆いをヒントにしたデザインとされる。
室外に出て回り込むと、生きた槙の木を柱に使っているのが見える。槙は一度切ると上への成長が止まる性質があり、そこまで計算して設計したと思われる。

数寄屋は従来の”和室”の呪縛から自由になった造形に魅力があるが、それにしてもこの独創性には圧倒される。


#3:壁全体が床の間になっている。ヴォールト天井はいわゆる”和室”ではまずお目にかかれない独創的なスタイル(拡大
4 5 6 7
#4:不老庵へのアプローチ。 #5:生きた槙を捨柱として使っている。 #6:室内を別角度から。 #7:肱川の眺め。 (写真はクリックすると拡大表示します)
臥龍院

#8:自然木を活かそうという発想がすごい。石積みも凝りに凝っている。(拡大
臥龍山荘の母屋となるのがこの臥龍院だ。外観は農家を思わせる茅葺きの簡素な作りで、侘びた風情を表現。しかし一歩中に入ると、名匠たちによる工芸品というべき精緻な装飾や、見る人が見れば唸るような銘木の数々に圧倒される。内部撮影禁止なので外観写真しか載せられないのが残念。

なお、本作も中野の設計によるが、数寄屋に精通した八木(八木甚兵衛?)なる人物が監修したようである。

9 10 11 12
#9-11:臥龍院の外観 #12:山荘へのアプローチ (写真はクリックすると拡大表示します)
庭園

#13:庭園(拡大
庭園は神戸の庭師「植徳」による。てまり石、臼石、礎石など、多種多様な石と植物が配され、なんと氷室まである。


自然の造形物に美を見出し、適切に手を加えて魅せる美意識と、それを支える職人の技術があわさり、この傑作建築が成立している。私はしょせん門外漢の都市計画屋さんなので薄っぺらな理解にとどまるが、それでもこの空間の凄みは十分に堪能できた。
本作を見るためだけに四国に行ってもいい。それだけの価値がある逸品である。

14 15 16 17
#14:多種多様な石。 #15:氷室 #16:浴室を改造した茶室「知止庵」 #17:山荘の門。 (写真はクリックすると拡大表示します)
おまけ

#18:臥龍山荘近くの公衆トイレ(拡大
臥龍山荘の周辺に広がる大洲の街にも風情があり、じっくり散策したい。

すごく気になったのは山荘近くの公衆トイレ。数寄屋のエレメントをつなぎあわせただけの”なんちゃって数寄屋”ではあるが、面倒な法規などしがらみの多い現代にしてはかなり頑張ったなぁと思う。

[参考文献・サイト]
1) 大洲市(2012)「水郷の数寄屋 臥龍山荘」 (Amazonでも買える

[見学ガイド]
入場可能時間:9:00-16:30 入場料:500円

[行き方ガイド]
JR伊予大洲駅から循環バスに乗車し「あさもや」バス停で下車、徒歩5分。 駅から歩く場合は20分程度。
作成:2012/6/24 最終更新:2012/6/24 作成者:makoto/arch-hiroshima 使用カメラ: Nikon D90
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