安芸太田町役場筒賀支所/旧筒賀村役場

吉岡彦一 1936

中国山地の山村集落を束ねるかつての村役場。1930年代の建築であり、純粋な洋館とは趣が異なるが、 それでもファサードは左右対称で玄関にはポーチが付き、櫛形ペディメントを備えるなど、様式を意識した意匠となっている。 窓枠はオリジナルではないが、上げ下げ式で更新されており、しかも見付が小さい(窓枠が細い)ので当初の雰囲気を留めている。
本作は築80年を超える木造だが、きちんとメンテナンスさえしておけば(そしてヘタな改造さえしなければ)、そう簡単に老朽化で解体…などということにはならないのがよく分かる。 ポーチはバリアフリー化にあわせて手が加えられているが、変更は最小限に抑えられている。そしてポーチには現在の名称の「筒賀支所」ではなく、当初の「筒賀村役場」のプレートがそのまま残っている。 役場にありがちな調和を乱すサイン類が付いていないのもすばらしい。
決して派手な建物ではないし、昔の姿を完璧に留めているわけでもなく、一つ一つの工夫はささやかなものだが、全体を通して建物への敬意が感じられるのが気持ちよい。 高速道路からのアクセスも悪くなく、近くには井仁の棚田もあるので、週末プチ旅行の行き先に加えてみるのもよさそうだ。