呉市音戸市民センター

隈研吾 2008

瀬戸内海でも特に狭い海峡として知られる音戸瀬戸(おんどのせと)にも近い、穏やかな海面に面して建つ公共施設。行政窓口・図書館・公民館・多目的ホールの各機能が大屋根の下にまとめられている。
ホール機能を含むため建築のスケールはどうしても大きくなるが、その一方で周辺には歴史ある集落が広がっており、それらとの調和をどう図るかが大きな課題となる。バブルの熱気に乗り強烈な作風でデビューした隈研吾はバブル後に地場の建材や自然素材による表現へと作風を劇的に変化させたことで知られるが、本作では木ルーバーに加えて本瓦をポイントとして挙げている。

われわれの提案のテーマは屋根、瓦によって構成される瀬戸内海の景観の構造を抽象化し、建築にすることでした。屋根のディテールに景観の構造を持ってくるわけですが、そこには私たちなりの抽象化、粒子化するという操作がありました。周辺景観のコピーではなく、周辺となじみながらも何かふわっと浮かんでくる屋根を目指しました。-(中略)- 全体としては大きなマッスになるけれども、構成している粒子が周囲と同じであることで、マッスが持つ威圧感を和らげることができます。その粒にこだわりたかったので、私たちはコンペの時から本瓦を使用すると宣言していました。
(雑誌「新建築」2008年3月号pp100より引用)


しかしスケールの差はいかんともしがたく、ある程度距離を取ると(本瓦かどうかなど分からないので)テクスチャが消えノッペリとした大屋根はやはりオーバースケールな印象を与えてしまう。本瓦効果は今ひとつだなと思った。ではスケールが完全に調和してないからダメかというと、そうでもない。遠望すると大屋根はまるで工場のように見え、周辺の沿岸には造船所や工場が点在しているので、それほど大きな違和感は無かった。

音戸瀬戸を見渡せるデッキ空間は開放的で、本作最大のチャームポイントになっている。屋外ソファなど、座れるものを置いてくれるとより良くなるだろう。
一方で「これはどうかねぇ」と思ったのはインテリアで、天井は木ルーバーのヒダヒダに覆い尽くされている。好みの問題とは思うが、まるで巨大生物のお腹の中にいるような印象で、心地よい空間とはいえない気がした。

とはいえ、一応建築作品として鑑賞に耐える水準にはあるので、音戸の町の散策がてら訪問してみて欲しい。