みはらし亭

不詳 1923頃

#1:急傾斜地かつ不整形地に建つ。建物の一部は空中に張り出し懸造となっている。

尾道の山側、千光寺公園から町に降りていく坂道に沿って建つ別荘建築。尾道の豪商たちには水際に店を構えて山側に茶園(さえん)と呼ばれる別荘を建てる独特の文化があり(*1)、本作は折箱製造業で財を成した石井家が大正時代に千光寺の敷地を譲り受けて建てた茶園である。戦後に所有者が変わると旅館へと転じ、さらに空き家となっていたものを、地元NPOが修復・再生させ、2016年に再オープンした。現在はカフェ・ゲストハウスとして営業しているので泊まることもできる。内観する機会を得たのでリポートしたい。

外観を見ると、急傾斜地に石垣を構築し、さらに懸造りとして建物を張り出させているのが特徴と分かる(写真#1)。どうしても敷地は不整形になるため、雁行配置された部屋や三角形の床の間(写真#5)など平面プランも不整形となるが、地形に沿ったプランなので尾道水道の眺望を最大限取り込むことができている。いかにも尾道らしい建築デザインといえよう。アクセス経路は千光寺から町へ下る石段しかなく、リノベーションに必要な資材を人力で運ぶなど苦労が多かったようだ。

#2:2階は宿泊施設(ゲストハウス)

屋根は入母屋造りで、瓦は極力オリジナルの鎬(しのぎ)桟瓦を残すように配慮されている。また、軒は丸太の垂木が放射状に配されており(*2)、数寄屋を意識したデザイン上の工夫とみられる(写真#6)。

訪問して強く感じたのは、建築の背景にある茶園文化も含めた深い理解と敬意を感じさせる的確なリノベーションと、単に建物を保存するだけでなく使うことで新たな息吹を吹き込んでいる点、さらにそれを民間ベースでリスクテイクし事業化している点だ。全国的に見て稀有な成功例である尾道の空き家再生だが、建築への愛情の深さという面でも敬服と称賛の言葉が尽きることはない。本作の場合はカフェ・ゲストハウスとなっており訪問しやすいので、ぜひ客として利用してみてほしい。それが何よりの応援になる。