基町高等学校

原広司+アトリエ・ファイ建築研究所 2000

[注意] 現役の学校施設であり、通常は非公開です。施設側の迷惑とならないよう配慮し、外観のみの見学としてください。


広島城址および基町高層アパートに隣接する高校校舎。ひろしま2045ピース&クリエイト(P&C事業)(*1) の一環として改築された。

イレギュラーな棟配置

#1:ピロティ越しに広島城天守閣をのぞむ。手前にグラウンドがある。

まず、本作の特徴となるのが、校舎を敷地の南西側にL字で配置したことだ。日当たりの良い南側は校庭にして校舎を北に寄せるのが配置のセオリーであるが、既存の校舎を残しながら新築する必要があったためこのようなイレギュラーな配置となった。

南棟では、前面道路への圧迫感を和らげるために1~2階の一部を吹きさらしのピロティとしており、グラウンドから広島城のグリーンへ視界が通る。(写真#1)
ピロティ越しに天守閣を眺めるというアイディアは、ひょっとしたら丹下のピースセンター(ピロティを通して原爆ドームを眺める)を意識したのかもしれない。

イレギュラーな階構成

#2::南棟4階の普通教室ゾーン。ここに1~3年の全学生が集中する。ここも外部空間。

校舎に限らず、設計のセオリーでは多くの人が使う部屋は下へ、そうでない部屋は上階に配置する。そうしないと階段などの縦動線が過大となり非効率になってしまう。
ところが本作では、最も利用頻度の高い(移動の多い)1~3年生の普通教室をまとめて4階に置き、専門教室を3階、職員室を1階としている。大量の生徒を上階に移動させる必要があり、なおかつ階段だけでは辛いと判断したのか、高校校舎としては異例のエスカレーターが置かれた。
そのエスカレーターのある吹抜け空間は外部であり空調されていないばかりか、屋根も部分的に付いているのみであり、雨天時にエスカレーターに乗ると濡れてしまう。エスカレーターを少し奥へ動かすだけで濡れずに済むのだが、この設計意図はどこにあるのだろうか…?(写真#4)

窓の開かない教室

#3::南面の大きな窓。庇はなく窓も開かない。

低層部がコンクリートのマッシブな(量感のある)表現であるのに対し、4階は鉄とガラスの軽快な表現となっている。前述の通り共用廊下は外部空間であり、風雨のある日は教室間移動にも苦労が伴う。
教室の天井は高く、それぞれ色彩などの変化が付けられており、大きな窓からは広島城を一望できる…のだが、窓はほとんど開かない。また、通常付くはずの庇がなく、室内のカーテンだけで日射を遮らねばならない。8月の夏休み期間に訪問した際には、その熱気に驚いた。これでは冷房をフル稼働させても厳しそうだ。
外部に適切な庇を付けなかった理由は不明だが、もし平滑なファサードデザインを優先した結果なのだとしたら、それは作家性重視の弊害というほかない。
このサイトでは、実用性を多少損ねてでも作家性ある建築を評価したいのだが、いくら何でもこれは酷である。全く環境と共生できていないし、生徒の健康にも関わる。


西棟のコンセプトは明快

#8:西棟のアトリエゾーンの共用廊下。ギャラリー空間となっている。

#9:西棟の体育館。この上にアトリエが載っている。

ここから先は西側の校舎について。
基町高校は公立ながら充実した美術コースで知られており、この西棟の上階には西洋画、日本画、CG、陶芸などのアトリエがまとめて配置され、先ほどの普通教室ゾーンと渡り廊下で行き来できる。共用廊下は広く、ギャラリーとしても機能するよう設計されており(写真#8)、中庭も設けられている(写真#14)。 美術系ゾーンを上階に配置する目的は明快で、室内にまんべんなく自然光を入れる必要があるためだ。もし下階に置くと、部屋の奥まで自然光が届かず照明が必要になり、美術制作にとっては好ましくない。 自然光といっても直射日光では強すぎるので、各アトリエの天井には北向きのハイサイドライトが配されている(写真#16)。西棟がノコギリ屋根なのはこのためだ(写真#17)。 では、美術系ゾーンの下はどうなっているかというと、体育館と講堂がある。アーチトラスで33mスパンを飛ばしているのだが、上にそんなものが乗っているとは感じさせない軽快な表現となっている(写真#9)。

作家性へ無警戒に偏る弊害

このように、西棟はともかくとして、南棟が非常に残念だった。雨がかりについてはもっと検討できたはずだし、南面の窓にはいくらでも工夫はできたはず。実用性より作家性に極端に偏る弊害を見せつけられた気がした。
私が一番危惧するのは、そもそもP&C事業とは設計入札という悪しき慣例に依らず優れた公共建築を積極的に建てていく素晴らしいプロジェクトであったはずなのに、このような事例のために市民の間で「公共建築を建築家に頼むのは良くない」という世論が形成される事態だ。
このサイトでは、多少の不便は許せる優れた建築を多く紹介していくよう、今までにも増して頑張らないとなぁと、変な決意をした次第である。

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